第八章 動き出す心

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 午後は都内のスタジオでファッション誌の撮影だった。  この二十代女性向けのファッション誌には毎月、寺西さんがモデルとしてうちの服を着るコーナーがあるそうだ。  撮影ではもう秋冬用の衣装が用意されていて、それを寺西さんは本物のファッションモデルのように着こなす。  長身ですらりとした立ち姿や、カメラマンの要望に応えながらカメラに向けるクールな眼差し、柔和な笑み。  そのどれもがとても一般人のそれではない。  ――寺西さん、すごい。かっこいいな。  そう思うのは、やはり私だけではないようでスタジオの隅で撮影を見守っている間に何度も女性スタッフの「かっこいい……」とか「やっぱり寺西さん、良いよね……」なんてため息のような声が漏れ聞こえてきた。  午後三時。撮影を終え、会社に戻るタクシーのなかで寺西さんがジャパンガールズコレクションのための資料を家に忘れたことを思い出し、一度彼の住むマンションに立ち寄ることになった。  寺西さんが運転手に行き先を伝える間、私は慣れないアシスタント業務でへまをしないよう、スケジュールアプリとタスクリストを必死で確認する。  だからタクシーがそのマンションに着くまで気付かなかった。  寺西さんの住んでいるのが、爽と同じタワーマンションだったなんて。
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