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第九章 ランウェイをあなたと
それから映画の宣伝のためのテレビ出演や取材などが本格化して多忙を極める爽と会うことのできないまま、ジャパンガールズコレクションの開催される土曜日を迎えた。
あの日、戻ってきた寺西さんにどういうつもりかと詰め寄っても「本気なんだけどなぁ」とか「まぁ、これで彼がどう動くか見てみようよ」なんて要領の得ない言葉が返ってくるだけだった。
爽とのメッセージのやり取りも、ディスプレイの文字からもなんとなくお互いにギクシャクしてしまっているのが分かる。
寺西さんの言ったことには私も爽も触れない。
説明したいけど、文字でうまく言えるとは思えないし、なにより、何を説明していいのかも分からなかった。
だって、私は。
ーー私は爽にとって、一体なんだって言うんだろう。
ただ街中でぶつかった縁で、気を失った時に部屋まで運んで、貧乏暮らしをしているからって、お弁当を届けるように頼んでる。
ただ、それだけ。
友達って言ったけど、友達ですらないじゃない。
たくさん親切にしてくれるけど、名前のつけられない、おかしな関係。
そんな相手に「あの人とはそういう関係じゃない」なんて伝えて何になる。
爽だって、そんなことを言われたって困るはずだ。
――どんな顔して、爽に会えばいいのよ。
会いたいのに、会うのが怖いなんて。
私は重い足を引きずって、会場である埼玉スーパーアリーナに向かうため、家を出た。
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