第九章 ランウェイをあなたと

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 鏡台では現地入りしたモデルから既にメイクやヘアセットを始めていて、これがファッションショーなんだ……と妙に感動してしまう。  それから寺西さんと二人でスタッフと打ち合わせをしている間に、別室で衣装に着替えた爽と設楽さんがやってきた。 「おはようございます」 「おはようございます。今日はよろしくお願いします」  設楽さんと寺西さんが業務的な挨拶をしている間、爽と私の間にはなんとなく気まずい空気が流れていた。 「都築くん、よろしくね」 「……よろしくお願いします」  まるでこの前のことなんて何もなかったかのようににこやかな寺西さんに返した爽の挨拶には、いつものアイドルとしての爽やかさがない。  寺西さんのあの時の言葉。  それを気にしているのは私と爽だけみたいだ。 「おはよ」  爽が首を揉みながら、ぼそっと言う。  茶色い瞳は空中をさまよっていて、私のことを見ていない。  そんな彼の様子に、こっちまで更にギクシャクしてしまう。 「お、おはよう」  ちょっと上ずってしまった声で返すと、爽は頷くだけで私の横をすり抜け、鏡台の前の椅子にどかっと腰を下ろした。
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