第二章 優しい夜

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 佐々岡さんは私の一年後輩で、契約社員と正社員という立場の違いはあるものの、雇用形態の垣根を越えて親しくしてくれている。  ゆるふわに巻かれた髪に流行色のリップで女子力高めの彼女と、節約ばかりでおしゃれもろくにできない私とではつり合いがとれていないというか、雇用形態以上にギャップがあるとは思うのだけれど、構われるとほだされてしまうもので。  いつからか昼休みになると毎日、二人で一緒に休憩スペースでお弁当を食べるのが習慣になっていた。  お弁当と言っても彼女のは近くのデリのサンドイッチや雑穀と緑黄色に溢れた女子向け健康弁当だったりするから、これまた私の手作り節約庶民派弁当とは天と地ほどの差がある。  私は足首に添えられた彼の指の感触を頭から振り払って「ごめんごめん」と彼女に詫びて席をたった。  佐々岡さんもふわりと甘い香りをさせながら立ち上がる。  いくつかのデスクの島を横切りながら入り口そばの休憩スペースに向かった。  私たちの勤める会社は歴史のある衣料品メーカーで、国内外に九つほどのアパレルブランドを展開している。  特にそのうちの一つであるReal clothes(リアルクローズ)は若い女性たちから長年支持され、国内最大級のファッションイベント、ジャパンガールズコレクションにも参加している。  六本木のオフィスビルの高層階に構えるオフィスは観葉植物やアート作品などで飾られ、今どきでスタイリッシュ。  着古した洋服で働くのが申し訳なくなるほどで、佐々岡さんのようにおしゃれな社員ばかりだ。
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