第九章 ランウェイをあなたと

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 私はあまり容姿に自信がないから、普段の洋服はつい暗い色を選びがちだ。  トップスもスカートも黒や紺、こげ茶ばかり。  こんな可愛いかんじの洋服、似合わないんじゃないかな……。  でももう私がいくらショーに出たくないと言ったところで、きっとどうにもならない。  これも仕事。これも仕事。  仕事。仕事。仕事。  自己暗示をかけるようにそう頭のなかで繰り返して、半泣きで衣装を身につける。  そういえばお金がなさすぎて古着ばかり着ているから、Real clothesの洋服を着るのは初めてだ。  ニットは肌触りが柔らかで、軽いのに温かい。  まるでふんわりと毛布で包み込まれているみたい。  スカートも体形がカバーされるように計算されているのか、スタイルの良くない私でもシルエットが綺麗に見える。  着替え終わってカーテンから出るのにも、気恥ずかしいやら緊張やらで時間がかかったけれど、恐る恐るカーテンを開けた。  寺西さんも準備にとりかかっているのか、姿が見えない。  爽は別のスタッフと段取りの確認でもしているのか、真剣な表情で話していて、私のことは視界に入っていないみたいだ。  なんとなくホッとしながら、鏡台に移動してヘアメイクをしてもらう。  メイクさんに衣装を汚さないように首元に布をあててもらい、一旦、自前のメイクを落とされる。  そこからはもうプロの神業としか言いようのないスピードと技術で、ものの十五分ほどでメイクとヘアセットが完成した。
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