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第十章 それぞれの想い
その後、私たちはReal clothesのスタッフ、社員たちに温かく迎えられ、ショーは無事に終了した。
今度は朝とはまた違う慌ただしさで撤収作業に移る。
「部長にやらせるわけには……!」と恐縮しきる直井さんにも朗らかに微笑みながら、すすんで作業を手伝う寺西さんにうっとりする女性スタッフたちの姿がなかなかに可笑しい。
私も衣装部の人たちと衣装の搬出を手伝っていると、着替えを終え、帰ろうとしている爽に呼び止められた。
「美羽!」
「爽。お疲れ様」
「おう、おつかれ」
廊下の先で設楽さんがこちらに訝しげな視線を投げかけている。
挨拶だけして帰るのかと思ったのに、そう言ったあとも爽はしばらく動かない。
「? どうしたの?」
「あー、えっと」
「ん?」
「今日、終わったら、うち来いよ」
ぼそぼそとそう答えた彼は、またちょっと気まずそうな顔をしている。
――あれ、今日はお弁当の約束はしてなかったはずだけど……?
「お弁当?」
「いや、そうじゃなくて」
「え?」
「……話があんだよ。待ってるからな」
爽は一方的に早口で告げると、私の返事を待たずに設楽さんのところに走っていってしまった。
ーー話って、なんだろう。
お弁当の配達でもないのに、爽の部屋に呼ばれるのなんて初めてだ。
驚きを隠すこともできず、私は呆然と設楽さんと帰っていく爽の背中を見送った。
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