第十章 それぞれの想い

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 一通りの片付けが終わって会場を出ると、後ろから「美羽ちゃん、ちよっと待って」と寺西さんが駆け寄ってきた。 「送っていくよ」 「そんな! 申し訳ないので電車で大丈夫ですよ」 「美羽ちゃん、たしか最寄り駅、赤羽橋だったよね? 方向一緒だし、一人で運転するよりは隣に話し相手がいてくれた方が助かるよ」 「ホントですか? それじゃあ、お言葉に甘えて。お願いします」 「やった! 美羽ちゃんとドライブできる権利、もらえた」 「もー、また変なこと言って」  こういうところがなければ、優しくて大人で、仕事に情熱を傾ける良い人なんだけどな。  そう思いながらも寺西さんのおかげで今みたいに笑顔になっている自分がいるのも事実だ。  どこまで冗談なんだか本気なんだか分からない寺西さんの言葉に笑いながら、二人で駐車場まで歩く。  彼の車は外国自動車メーカーのエンブレムがついた美しいラインのスポーツカーで、忘れてたけどこの人もお金持ちなんだよね……と、爽といい寺西さんといい、私なんかが関わりがあることを不思議に思う。  寺西さんが恭しくポーズをとりながら助手席のドアを開いた。 「さ、どうぞ、お姫様」  普通の男の人が言ったらドン引きしてしまうようなセリフでも絵になってしまうんだから寺西さんはさすがだ。  笑ってツッコミを入れることも許容してくれるし、そうして一緒に笑い合うことはすごく楽しい。
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