第十章 それぞれの想い

4/13

367人が本棚に入れています
本棚に追加
/245ページ
 東京に入ると一気に高層ビルや灯りが増えて、夜景もにぎやかになった。  たくさんの灯りを眺めていると、なんだか自分のいる今が嘘みたいに思えてくる。  超のつく貧乏暮らしで家族のために契約社員として働き、何の楽しみもなかった私が、爽と寺西さんと出会ってから以前では考えられなかった暮らしをしている。  お金に余裕がないことは変わりないけど、キラキラした世界を垣間見たり、仕事のやりがいを感じたり、こんな風に男の人の車に乗っていたりする。  ふと、それまで冗談めかして話していた寺西さんの横顔から笑顔が消える。 「美羽ちゃん、ありがとう」  そう囁いた寺西さんの声は真剣そのもので。 「君のおかげで今日のショーは成功した。あの衣装を着た美羽ちゃんを見たとき、うちの仕事がこんな風に着る人の可愛さを引き出すんだ……日常生活のなかで、ちゃんと誰かのためになる仕事なんだって、改めて感じることができたよ」  寺西さんのむこうに東京タワーが見えている。今日もどこかホッとするような暖かな光をまといながら、東京の街を見下ろしているような。 「前も話したけど、父さんのやり方に納得できなくて独立しようかって本気で考えてた。だけど今日、美羽ちゃんのおかげではっきり気付いたんだ。俺はこの仕事が好きだ。うちのブランドが、商品が好きだ。だから俺はこの会社で、会社のなかから変えていきたい。逃げるんじゃなく、ちゃんと、ここで」
/245ページ

最初のコメントを投稿しよう!

367人が本棚に入れています
本棚に追加