第十章 それぞれの想い

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 いつものように地下駐車場から爽の部屋に向かう。  チャイムを押すと、すぐにムスッとした顔の爽がドアを開けてくれた。  爽のその態度はまるで今日の朝に逆戻りしたかのようで、なんだか私までギクシャクしてしまう。  二人でリビングのソファに向かい合って座る。  話したいことがあるって呼び出したのは爽の方なのに、黙り込んだまま何も言わない。  部屋のフローリングをなぞるようにさまよう視線。  私たちの間をどんよりと重い、気まずい空気が漂っている。 「あの、さ」  爽が顔をあげて私をじっと見つめ、ようやく口を開いた。 「美羽はあの人と……寺西さんとどういう関係なんだよ」 「どうって、会社の上司だけど……」 「普通の上司があんなこと言うか?」  ーーあんなこと。  きっとこの前、マンションのロビーで会ったときの寺西さんの言葉のことを言ってるんだろう。 『俺、美羽ちゃんのこと、気になってるんだ。友達なら俺たちの仲をとりもってもらえないかな?』  寺西さんの声が耳の奥によみがえる。  どういうつもりなのか分からなかったけど、今日の車内での出来事を思い返すと、どうしても本当に女性として見てくれているんじゃないかと思ってしまう。 「それ、は……」 「お前は寺西さんのこと、どう思ってるんだ?」 「寺西さんは……私が落ち込んでるといつも声をかけてくれたり、仕事にも一生懸命だったり、すごく良い人だと思う」  爽に誤解されたくない。  だけど、寺西さんが私に親切にしてくれるのは事実で。
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