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「じゃあ、その……好き、なのか?」
「えっ?!」
歯切れ悪く問いかけられて、思わず大きな声をあげてしまう。
「ど、どうしてそうなるのよ!」
「だ、だって会社でも一緒だし、いつも声をかけてくれる良い人なんだろ」
「いや、そうだけど……」
やっぱり誤解されてる。
そうじゃないのに。
だって、私が好きなのは……。
「違う! 私が好きなのは……」
ーー爽だ、なんて言えるわけない。
芸能人でアイドルで、たくさんのファンに愛されていて、住む世界が違くて。
私なんかが恋に落ちるのはおこがましいと思うほど、本来は好きになっちゃいけない相手。
芸能界には田無さんみたいに綺麗で華やかなモデルさんや女優さんがたくさんいる。
爽が貧乏ったらしい私なんかを好きになるわけがない。
私は口をつぐんで、そっと窓際に歩みよった。
窓ガラスに手をあててみると、ひんやりと冷たい。
窓の向こうに広がる六本木の夜景。
こんなに綺麗な世界に触れて、私は手の届かない人に恋をしてしまった。
爽に気持ちを告げて、もうこうして会えなくなるのなんて嫌だ。
贅沢なんて言わないから、お弁当を届ける、その関係だけでいい。
そばにいられるなら、爽を近くに感じていられるなら、ここで爽の笑った顔を見られるなら。
それだけでいい。
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