第十章 それぞれの想い

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 東京タワーのオレンジ色が歪んで、そこで初めて私は自分の目に涙が溢れているのに気付いた。  窓ガラスに反射して映る室内の光景。  そのなかで爽がソファから立ち上がって、こちらに歩み寄ってくる。  ――どうしよう、こんな顔、見られたくない。  そう思った次の瞬間、私は爽の腕のなかにいた。  後ろから力強く私を抱きすくめる爽の腕。  肩越しに感じる熱い吐息。  一瞬、何が起こったのか分からなかったのに、窓ガラスが鏡のように爽に抱きしめられた自分を映していて……すぐに心臓が激しく音をたて始める。  爽に聞こえてしまうんじゃないかと心配になるほど、ドキドキとうるさい。  ――爽、なんで。  前の壁ドンの時みたいに何かの悪戯?  でもこんな時に? 「わりぃ」 「な、なに……」 「美羽」  私を抱く腕の力が強くなる。  窓ガラスのなかの爽が切なげに目を伏せた。 「あいつのものになんて、なるな」 「だ、だから寺西さんとはそういう関係じゃ……」 「今はそうかもしれねぇけど、これからのことは分かんねぇだろ」  ――どうして、そんなこと……。 「出会った時から、なんか……ほっとけねぇんだよ。転んで靴が壊れただけで大泣きするし、家族のために寝不足になるまで働いて倒れるし」  心臓は全然静まってくれない。  爽が小さくぼそぼそと話す声がすぐ近くに聞こえる。
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