第十章 それぞれの想い

11/13

367人が本棚に入れています
本棚に追加
/245ページ
「俺はアイドルで、母ちゃんの手術の時に助けてくれた事務所と、応援してくれるファンのためにも簡単に恋愛なんてできねぇ。まだその覚悟ができる前は彼女がいたこともあったけど、部屋でしか会えねぇからって愛想尽かされて週刊誌に売られるし、その後も芸能人としての俺を利用しようとする女ばっかり寄ってくるしさ。……だからもう恋愛はアイドルの自分には不要なもんだって割り切ってきた。でも……」  爽が私の肩に頭を埋める。  香水のにおいがグッと強くなって、爽の息づかいを肩に感じる。 「でも今日、寺西さんとお前を見て、美羽をとられると思った。きっとこのままじゃ、この関係が、この生活が終わるって、思った。そんなの、俺は……俺は、嫌だ」 「え?」 「美羽」  爽の腕が一度、私から離れたかと思うと、肩に手をあてて彼の方に向きなおさせられる。  間近で向かい合う形になって、私は爽の顔を見上げた。  色素の薄い瞳が真摯な熱を帯びて、じっとこちらを見つめている。 「我慢ばっかりさせるかもしれない。満足にデートにも連れていってやれねぇと思う。でも、どこにもいくな。誰のものにもなるな。俺は美羽のことが好きだ」  うそ……。  爽が、私のことを好き……?  本当に?  ありえない、こんなの……。 「爽……」 「こんな気持ちになったのはお前だけなんだ。これからの毎日に美羽がいないなんて、考えらんねぇ」
/245ページ

最初のコメントを投稿しよう!

367人が本棚に入れています
本棚に追加