第十一章 ガラスの靴

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 わざわざ誕生日だと言って気を遣わせるのが嫌だった。  忙しいのに私と会うためにわざわざ時間を作ってくれるだけで嬉しくて……。  顔を見て寄り添えるだけで幸せなんだから。  しばらく廊下の向こうでどこかに電話をしている声が漏れ聞こえていたけれど、それがやんで爽が戻ってくる。 「出かけるぞ」 「出かけるって……?」  外では一緒にいられないはずじゃ……。  爽はまだムスッとした表情で腕を組みながら、ぶっきらぼうに言った。 「店、開けてもらった。誕生日プレゼント買いに行くぞ」 「プレゼントなんていらないよ! 私は爽と一緒にいられれば」 「俺がプレゼントしたいんだよ。……たまには恋人らしいこと、させろよ」 「爽……。ありがとう。大好き!」  きゅんとして思わず抱きつくと、爽は顔を真っ赤にして頭をかいた。  仕事や真剣な時は大丈夫なのに、普段はこんな風にすぐ赤面するから可愛い。  その後、爽が先にエントランスからマンションを出て、私も時間をおいて駐車場から外に出る。  爽に教えられた通りに閉店後の六本木ヒルズにある高級ブランド店の裏口に行くと、彼が待っていた。  照明が落とされて、あたりに人気はない。
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