第十一章 ガラスの靴

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 慣れた様子の爽と一緒に店内に入ると、スーツを着た男性店員が笑顔で迎えてくれた。 「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」 「閉店後にすみません」 「とんでもないことでございます。都築様でしたら、いつでも大歓迎です」  そんな風に店員さんと会話する爽は、外仕様の爽やかな芸能人の爽だ。  私たちはVIPルームだという、通常の売り場とは別の部屋に通される。  たぶん二十畳近くはあるだろう広い部屋のなか、壁沿いにずらりと洋服やバッグなどが並んでいて、ルームフレグランスの良い香りがした。 「なんか欲しいものあるか? ここになければ別の店に行ってもいいからな」  急に欲しいものと訊かれると困ってしまう。  今まで洋服でもなんでも壊れかけたら繕ってでも使ってきたし、必要最低限の買い物ばかりしてきた。  何か壊れかけてるものってあったかな? と考えても、今は間の悪いことに何もない。  しかもちらりと見たお財布のプライスタグに書かれた金額が私の一ヶ月の食費と家賃より高くて、目が飛び出そうになった。  それから二人してあーでもないこーでもない言いながら店内のディスプレイを見たり、店員さんがおすすめの新作ですと持ってきてくれた商品の説明を聞いたりした。
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