第十一章 ガラスの靴

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 そこでふと、爽が何かを思い出したかのように靴がずらりと展示されているコーナーに歩いていく。  じっと一点を見つめてしばらく考えたあと、これを、と店員さんに声をかけた。 「なるほど、そういうことでしたか。おめでとうございます」 「特別ですからね」  何故だか訳知り顔の店員さんのお祝いの言葉に、爽が笑顔で返す。  ――?  よく分からず首を傾げた私に、爽が肩越しに振り向いて足のサイズを聞いてくる。 「足、いくつ?」 「二十四センチだけど……」  歩み寄ってきた爽が手をひいて手近なスツールに座らせてくれる。  それからすぐに店員さんが一足のパンプスを持ってきて、そっと私の足元に置いた。  パールやラメがちりばめられ、グレーのサテン地が輝きを放つピンヒール。  キラキラしてるのに全然悪目立ちのしない上品さ。   縁を淡いパステルピンクのラインが二本、絡み合いながら一周している。 「綺麗……!」 「ありがとうございます。こちらのパンプスはトゥージュール……当ブランドの創業当時から五十年経つ今でも大切に受け継がれている商品でございます」 「ほら、履いてみろよ」 「うん」
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