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履き古してボロボロになったパンプスを脱ぐと、すぐに爽がひざまずいて私の足に触れた。
もう何度も触れ合ったのにまだ触れられることに慣れなくて……毎回どうしてもドキドキしてしまう、長い指の温かな感触。
爽の瞳が私を見上げ、ニッと片側の口角をあげて微笑む。
そして店員さんから受け取ったパンプスを爪先にあてがい、そっと履かせてくれた。
ーーまるで出会ったあの日のように。
あの日は爽のスニーカーだったのに、今はこんなに美しい靴を。
あの時、あんなにぶっきらぼうで強引だった爽が、今はこんな風に優しく笑っている。
これまで信じたこともない、運命というものを信じてしまいそうになる。
こんな日が訪れるなんて、あの時は思いもしなかった。
なんて特別なんだろう。
ジーンとして、目の淵に涙が浮かんだ。
「うん、似合ってる。これにしようぜ」
「すごく高そうだけど……本当にいいの?」
「これは俺の気持ちだから。ちゃんと覚えとけよ」
「うん、ありがとう」
ちゃんと覚えとけなんて、こんな風に初めてのプレゼントをもらったことを忘れられるわけないのに。
頬を赤らめて照れくさそうにわざわざそんなことを言う爽を眺めて、あぁ、幸せだなぁと噛みしめる。
こんな日がずっと続いていけばいい。
贅沢は言わない。
爽の部屋でしか会えなくたっていい。
この関係を公になんてできなくていい。
爽が私を好きでいてくれている。
気持ちが通じ合っている。
そばで照れ屋なこの人の素顔を見つめることができるなら。
爽と私の気持ちが同じなら、それだけでいい。
だけど、この幸せな時間はあっけなく終わりを迎えることになる。
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