第十一章 ガラスの靴

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 十一月に入ってすぐ、時間をおいてマンションから出入りする私と爽、別々にブランドショップの裏口にまわる私たち、通勤時や買い物中の写真とともに、私の個人情報がネットに流出した。  ちょうどその頃からマンションのエントランスにある郵便受けがこじ開けられていたり、部屋のドアに生卵がぶつけられていたり、何十件も知らない番号から電話が鳴り続けるようになって。  私の様子がおかしいことを察して声をかけてくれた寺西さんに相談したところ、Twitterやインスタグラム、ネット掲示板などで(くだん)の写真と個人情報が流れているのを見付けてくれたのだ。  ご丁寧にジャパンガールズコレクションで爽と寺西さんと一緒にランウェイを歩いた時の写真まで一緒に拡散されていた。 『カラストの爽の女。TNCホールディングスの灰田美羽』  その文言とともに、どうやって調べたのか私の電話番号と住所が並ぶ。  寺西さんに見せられたスマホの画面を見たとき、まず最初に浮かんだ感情はひどいとかショックとかではなくて……爽に迷惑をかけてしまったことの悲しみや、爽との関係が終わってしまうかもしれないことへの不安だった。 「誰がこんなことを……」 「うちの顧問弁護士の先生に相談しよう。こんなこと、あっていいはずがない」  顔面蒼白になっているだろう私を見て、いつも笑顔の寺西さんの顔に怒りの色が浮かぶ。  私はそんな彼の言葉にもうまく返せずに、冷たくなった身体を抱きしめるようにして休憩室のベランダで震えていた。
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