第一章 ティファニーの魔法

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 そう、そもそも私がついていないのは今日に始まったことじゃない。  長時間のデスクワークでむくんだ足が、自然と六本木ヒルズに向かう。  いつも気力を失くしかけた時に行くところ。  二十二時をまわった六本木駅周辺にはまだ活発に行き場を探す若者たちや家路を急ぐ会社員たちで賑わっている。  その人混みをすり抜けて、閉店時刻を迎えて看板の灯りの消えた店舗を横目にしばらく歩くと、けやき坂に出た。  こちらは駅前と違って人通りも少なく、なんだか街が夜に身を潜めているようだ。  気持ちはひどく落ち込んでいる。  肩だって凝っているし、肉体的にもへとへとなのに、私はある場所を求めていた。  六本木ヒルズにも、けやき坂にもたくさんのきらびやかな高級ブランドショップが並ぶ。  私はそのなかの一つの店舗の前で足を止めた。  ティファニー。  店内は灯りがほとんど消えているけれど、壁と入り口ドアの上に掲げられたTIFFANY&CO.の文字は白く輝き、その上に鎮座する四角い時計の針は刻一刻と時を刻んでいる。  硝子の壁面の奥でアクセサリーの入ったディスプレイがぼんやりと光を灯していた。
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