第十一章 ガラスの靴

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 私を乗せた寺西さんの車が、爽の住むマンションの地下駐車場に停車した。  迎えにきてくれてからここまで、寺西さんはじっと前を見据えながら「きっと大丈夫だよ」と言い続けてくれた。 「話が終わったら、またホテルまで送るよ。ここで待ってるから、行っておいで」 「……ありがとうございます」  深呼吸して車を降りる。  ついこの間まで何度も通ったこの駐車場が、すごく久しぶりに感じる。  なんだか知らない場所に迷い込んでしまったみたいだ。  エントランスで爽の部屋のチャイムを押す。  どうしよう。  出てほしいような、留守であってほしいような複雑な気持ち。 『はい』  ザラザラしたスピーカー越しの爽の声。  何度もあの夜の告白の言葉を心のなかでリピートした、爽のちょっと高めの声。大好きな声。  鼓動が一気に早くなって、背中に冷たい汗が伝った。 「あ、あの、私」 「ちょっと待ってろ」  それだけ言ってすぐに通話が切れる。  いつもはすぐに開くエントランスの扉はうんともすんとも言わない。  このまま、ここにいればいいのかな……。  爽を待つ間、時間がたつのがすごく遅い気がする。  たったの数分のことなのに、何時間にも感じた。
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