第十一章 ガラスの靴

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「爽ッ!」  その時、エントランスのドアを押し開けるようにして、設楽さんが鬼のような形相で走ってきた。  私を睨みつけて、爽との間に割り込む。 「お引き取りください」 「設楽さん!」  冷たい声で私にそう告げた設楽さんを爽が怒鳴りつける。  男性同士の怒号と設楽さんの威圧感に足がすくんで、私も何か言いたいのにうまく言葉が出ない。 「で、でも」 「あなたがいると色んな人に迷惑がかかるんですよ。爽とはもう二度と会わないでください」 「設楽さん、あんた……!」 「爽、冷静になりなさい。お母さんの手術の時、助けてもらったことを忘れたのか? 爽をここまで大きくしたのは、トップアイドルに育てたのは社長だろう」 「……っ!」  爽が怒りで赤くなった顔で、悔しそうに唇を噛む。  ーーそうだ。一番、爽が事務所に恩を感じていたこと。  事務所に助けてもらったからアイドルとして恩返しすることを決めたんだって話してくれた、あの日。  私は爽がアイドルでいることの決意と覚悟を感じたんだった。  爽ともう会えないなんて嫌だ。  別れなきゃいけないなんて嫌だ。  でも、だけど……。
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