第十一章 ガラスの靴

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 私がいることで、爽にも迷惑がかかる。  爽が心を決めて頑張ってきたことの、邪魔になる。  掴みかかろうとする爽を大柄の設楽さんは軽々といなして、私をもう一度睨みつけた。 「田無瑞穂との記事を出すのだって金がかかってるんだ。これ以上、迷惑をかけないでください。今後、爽に近づくようならこちらにも考えがあります」  ひどい脅し文句。  だけど、思う。爽を守るために大金を使ってでもでっちあげの熱愛記事を出せた事務所のことを。爽のこれからの芸能人生のことを。  爽の事務所への恩義を。爽を応援するファンのことを。  どれも私なんかが邪魔していいものじゃない。  必死に設楽さんの向こうから、私に手を伸ばす爽。  不器用で照れ屋で優しくて情に厚くて、そして私の愛する爽。  胸が痛い。苦しくて、どうにかなりそうだ。  ――でも、もう行かなくちゃ。  私は指をぎゅっと握りしめて息をつくと、爽と設楽さんに背を向けた。 「美羽! おい、美羽! 行くなッ!」  背中に爽の叫び声がぶつかる。  ――お願い。もうこれ以上、私の名前を呼ばないで。  私だって離れたくない。  私だって、こんなことしたくない。  おぼつかない足で駐車場の入り口付近に停車した寺西さんの車まで歩いた。  フロントガラスごしに私を見つけた彼が慌てて降りてくる。
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