第十一章 ガラスの靴

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「大丈夫?」 「寺西さん、私、私……」  心配そうに私を見つめていた寺西さんが、表情からすべてを悟ったのか「何も言わなくていいよ」と呟いた。 「寺西、さん?」 「何も言わなくていい。もう傷つかなくていい」  寺西さんが私を優しく抱き締める。  爽とは違うオーデコロンの香り。  包み込まれるような温かな腕。  爽との別れが辛いのか、寺西さんのいる安心からなのか、感情がごちゃ混ぜになってもうよく分からない。  涙がとめどなく目の縁から溢れて、寺西さんのスーツの肩を濡らした。  バタバタと走ってくる二つの足音と、設楽さんが爽を呼ぶ声がする。 「美羽ッ!」  爽が私を呼ぶ、叫び。  ――爽……。設楽さんを振り切って、追いかけてきてくれたんだ。  寺西さんが私を抱く腕に力がこもって、爽を振り返ることができない。  強く抱きとめられたまま、寺西さんの顔を見上げる。  彼のいつも優しくて深い色をした瞳が、今は氷のように冷たい。  睨んでいるわけじゃないのに、爽を見据えるその目には突き刺すような鋭さがあった。
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