第十一章 ガラスの靴

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「さぁ、行こう」  寺西さんが車の助手席に私を乗せる。  視界の端で爽が設楽さんに取り押さえられながら、必死にこちらに手を伸ばそうとしていた。  ――そんな姿、もう見たくないよ。  これ以上、私の気持ちを揺らさないで。  爽を見なくてもいいように、うつむいてぎゅっと目を閉じる。 「美羽―ッ!!」  爽が叫ぶ声が窓ガラスごしに聞こえたのを最後に、車が動き出した。  寺西さんが膝の上でかたく握りしめていた私の拳にそっと手のひらをのせる。  ぼろぼろ泣き続ける私に何も言わず、ただ黙って手を握っていてくれた。  こんなに大好きなのに、もう爽に会えないなんて。  自分で選んだことなのに心が壊れてしまいそうなほど切なくて苦しい。  その夜、寺西さんは私が泣き止むまでずっと、当て所もなく東京の夜に車を走らせ続けてくれた。  滲んでぼやけた世界でも東京タワーや高層ビル群の灯りは綺麗で。  寺西さんとその灯りたちが「泣いてもいいんだよ」と言ってくれているような気がした。
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