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それからしばらくは、あの日と同じ二十二時から二十三時前後にティファニーの前で彼を探した。
再会できるか分からないし、その時間から家に帰って内職をするのはけっこうしんどい。
疲れが顔に出ているのか、佐々岡さんにすごく心配された。
だけどやっぱりこんな高価なものは受け取れない。
ちゃんと返したい。
彼と会えないまま一週間ほどが経った五月下旬の金曜日、二十二時三十分。
ティファニー前のガードフェンスに体を預けていると、繰り返し頭の中に思い浮かべてきた、すらりと長身のシルエットが森ビルの方から歩いてくるのが見えた。
あの日と同じ黒いキャップをかぶって、今夜は高い鼻梁に薄く色の入ったサングラスをのせている。
――彼だ。
緊張で心臓がバクバクと大きな音をたてる。
彼は私のことを覚えているだろうか。
何日もこうしてここで彼を待っていたくせに、いざこうなってみると声をかけるのにすごく勇気がいる。
あんなやりとりがあったとはいえ、当たり前だけど赤の他人だ。
そんなことを逡巡している間にも、彼は一歩、また一歩とこちらに近づいてきている。
私はスニーカーの入った紙袋の紐を、右手でぎゅっと握りしめた。
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