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第十ニ章 普通だけど普通じゃない、特別な日
翌日はホテルから一歩も出ずに泣くのと眠るのを繰り返し、ずっと布団にくるまって過ごした。
最後に私の名前を叫ぶ爽の顔や、これまでの思い出が何度もよみがえって、愛しさや悲しさや切なさがこみあげてくる。
日曜の朝十時、泣き疲れて眠っていた私は寺西さんの電話で目を覚ました。
まぶたが重いのは泣き過ぎて腫れているからだろうか。
「おはよう。美羽ちゃん」
「おはようございます。どうしたんですか?」
「デートのお誘い。もう下で待ってるから出ておいで」
寺西さんの言葉で一気に意識が覚醒する。
「デートって……とてもじゃないですけど、今はそんな気分じゃ……」
「じゃあ、ずっとそこで引きこもってるつもりかな?」
「……」
電話のむこうの寺西さんの声は、そんな風に言いながらも穏やかで優しい。
「気分転換しに行こう」
「でも……」
「俺に美羽ちゃんの時間をくれないか。来てくれるまでずっと待つよ」
返事を聞かずにプツンと電話が切れる。
――そんなのずるい。ずっと待つだなんて。
もう一度布団のなかに引っ込んでみたものの、ホテルの下で待つ寺西さんの姿を想像すると、このままでいられるわけなんかなかった。
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