第十ニ章 普通だけど普通じゃない、特別な日

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 車は混雑した日曜の街をゆっくりと走り、会社のあるオフィスビルの駐車場に吸い込まれる。  ――え、会社? 「どうして会社なんですか?」 「ちょっとね。さ、行こう」  当然のように助手席のドアを開けたり手を差し出したり、エスコートしてくれる寺西さん。  ――もう、教えてくれてもいいのに。  不服そうな顔をしてしまっていたのか、寺西さんに可笑しそうに笑われてしまった。  その後、訳も分からず手を引かれて連れてこられたのは会社の衣装室だった。  広報用の素材や店舗に飾るポスター、イベント等で使うための衣装や、まだ発売前の試作品など、たくさんの洋服がずらりと並ぶ広い部屋。  中央にアーチを描くカーテンで仕切られた半円状の試着室のようなスペースがあって、その両脇や前方に所狭しと洋服がかけられている。  そこにジャパンガールズコレクションでも会ったことのある衣装部所属のスタイリスト、桧山(ひやま)さんが待っていた。  桧山さんは海外アーティストのようにものすごく派手で個性的な服装をした大柄の中年女性で、さばけた口調と大きな口を開けて笑うのが印象的だ。 「桧山さん、すみません。お休みの日に」 「なに言ってんの! てらっちの頼みならモーマンタイよー!」  ――て、てらっちって。  若干その勢いについていけないでいる私を、桧山さんが上から下まで眺める。 「前に一度会ったわね。桧山可奈美(かなみ)です。よろしく」 「よ、よろしくお願いします。灰田美羽です」 「へぇ~、この子が?」  ニヤニヤとおもしろがるような顔で寺西さんに目配せする桧山さん。  寺西さんも「はい」と意味ありげに微笑んでいる。  
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