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「数字だけ見ていても、そう思うのは仕方のないことだ。でもだからこそ俺は君にこれを見せたいと思った。企画職やデザイナーだけが洋服を作る仕事じゃない。美羽ちゃんもこの洋服を作る一員として働いていたんだよ」
改めて衣装室を見回してみる。
色とりどりのたくさんの洋服たち。
これまでパソコンのモニターに表示される発注書に記載する品番の数字でしか見えていなかった、洋服そのものの姿。
ラインの綺麗なワンピース。
流行に合わせた大きなシルエットのトップス。
足が長く見えるように計算されたボトムス。
たくさんの女性たちがこの洋服を身につけながら働いたり、デートをしたり、お母さんをしたり、友達と笑い合ったり……。
そんな光景を想像すると、落ち込んで冷え切っていた心の中にじんわりと温もりが宿るようだった。
「てらっち、この子にマジなんだね」
洋服を取り出す手を休めて私たちを眺めていた桧山さんが感心したように言った。
寺西さんは肩をすくめて笑って見せる。
「そうなんです。全然振り向いてもらえませんけど」
――また変な冗談言って。
だけど寺西さんの優しさが今はすごく嬉しい。
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