第十ニ章 普通だけど普通じゃない、特別な日

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 桧山さんが手をパンパンと力強く打ち鳴らして「よし、こうなったら張り切っちゃう! 灰田さんも辛気臭い顔してないで、好きな洋服持ってきな!」と大きな声で言う。  今度は彼女に当てがわれるだけでなく、私も一着一着にちゃんと目を向けて選んでいく。  私が作ってきた洋服たちに、たくさんの人たちの、寺西さんの想いのこもった洋服たちにちゃんと向き合う。  それから試着室に持ち込んでファッションショーのように何着も服を着替えた。  一着身につける度にカーテンを開くと、桧山さんと寺西さんがその度に笑ったりリアクションをしてくれる。  ふとした時に脳裏に爽のことがよぎるけれど、目の前の洋服たちや桧山さんと寺西さんのおかげで大分気が紛れているのが自分でも分かる。  何着、袖を通しただろう。  三十分ほどして試着室のカーテンを開けた私を見て、寺西さんが「うん、よく似合ってる」と微笑んだ。桧山さんも「いいじゃなーい! これが一番よ! 私の目に狂いはないわ!」と叫んだ。  振り返って試着室の壁に据え付けられた姿見に映る自分を眺める。  小花柄のシフォン生地のワンピースは、ゆったりとしたサイズ感とロング丈でスタイルがいつもより何倍もよく見える。  胸もとが広くあいていることや、袖のふんわりとしたレースが女性らしい。  いつもは着ない可愛らしい洋服に、なんだかすごく気恥ずかしかった。
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