第十ニ章 普通だけど普通じゃない、特別な日

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 それから桧山さんとメイクさんにお礼を言って会社を出ると、また寺西さんの車に乗り込んだ。  例のごとく行き先は教えてもらえず、数十分後、到着したのは遊園地だった。  さすがにそこまでの元気はないと思ったのに、寺西さんに連れまわされてゴーカートやジェットコースターに乗ったり、お化け屋敷に入るうち、気付けばまたちょっとだけ笑えている自分がいた。  私の隣を歩く彼はまた自然に私の手を握っている。  寺西さんの熱くて大きな手のひら。  ぼんやりと寺西さんを見上げると、目があって穏やかに微笑まれて胸が熱くなった。  その後、屋台で焼きそばを食べたり、クレープを食べ歩きしたり、アトラクションやゲームコーナーを楽しんだりしてあっという間に夕方になった。  クレープを分け合った時の間接キスを何故か意識してしまったことや、いつも完璧そうに見えてゲームコーナーの射的が一発も当てられず恥ずかしそうにはにかんだ寺西さんを、帰りの車の中で思い出す。  爽のことは常に頭にあって、ふとした瞬間に落ち込みそうになってはいたものの、寺西さんのおかげで今日は一日楽しむことができた。  ちらりと運転席を盗み見ると、寺西さんの綺麗な横顔がじっと前を見据えていた。  これまでどれだけ寺西さんに救われてきただろう。  寺西さんがいなかったら今、私はどうなっていただろう。  爽と別れたからといって、まだこんなに爽を好きなのに。  それなのに、ずるいかもしれないけれど、私はそばに寺西さんがいてくれて良かったと心から思っていた。
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