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「美羽ちゃん、帰る前にもう一か所だけ付き合ってもらってもいいかな?」
車内のデジタル時計は午後六時をまわっている。
「いいですけど……。また行き先は秘密ですか?」
「あはは、そうだね。でももう着くからすぐに分かるよ」
私の問いかけに寺西さんは楽しそうに笑った。
――こんな時間だし、ご飯でも食べに行くのかな?
日が沈み群青色に深まっていく空を眺めながら予想した行き先は、半分当たりで半分外れだった。
車が停車したのはレインボーブリッジにほど近い日の出ふ頭。
ドアを開けて外に出た瞬間、ふわりと潮の香りに包まれる。
――どうして海、なんだろう?
訳も分からないまま寺西さんに連れられて行った先に、一台のクルーズ船が停泊していた。
「え……もしかして、これに乗るんですか?」
「正解。ちょっとだけ現実を忘れて、数時間の船旅に出よう」
――確かにクルーズ船に乗るなんてすごく非日常だし、もちろん乗ったことはないけれど……。
タラップを渡って船内に入っていく寺西さんの背中を戸惑いながら追いかける。
スタッフに案内された先は落ち着いた雰囲気の個室で、調度品や置かれたソファセットからも高級感が溢れていた。
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