第十ニ章 普通だけど普通じゃない、特別な日

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「寺西さん、あれ……」  私の視線に気づいて身を翻す人影に向かって、寺西さんが血相を変えて走り出す。  爽と田無さんの週刊誌の記事が出てから、悪戯電話や誰かに見られているような感覚は激減していた。  みんなきっと田無さんという新しい相手ができて、私への興味を失ったんだろう。  だからなんとなくだけど、あの人影が最初に私と爽の写真と個人情報をネットに流した人なんじゃないかという予感がした。  私も逃げていく人影と寺西さんを追いかける。  寺西さんの向こうに見える華奢な後ろ姿。  女性に見えるその背中はどこか見覚えのあるような気がして……胸の奥がざわざわして気持ち悪い。  一ブロック先で二人が曲がり角を折れる。  その瞬間に見えた横顔に、横っ面を殴られたような衝撃が走った。  ――うそ、でしょ……今のって、まさか……。  でも、どうして?  見間違いであってほしいと願いながら、すくみそうになる足を一歩踏み出す。  真実を知るのが怖い。  だって、彼女が犯人だったとしたら、私……。  よろよろと角を曲がった先、ビルとビルの間にぽっかり穴の開いたような小さな袋小路になった空間。  そこに寺西さんに追い詰められるような格好で、佐々岡さんが立っていた。  ――やっぱり……。  毎日、隣で見ていた彼女の横顔を見間違えるはずがない。  悔しそうに唇を噛みながら小刻みに震えている姿は、私の知っている佐々岡さんじゃないみたいだった。
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