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「スマホを出して」
寺西さんの声は今まで聞いたことのない冷淡さで、静かに怒りを燃やしていることがうかがえる。
佐々岡さんが青ざめた顔で唇を噛みながら、首を横に振った。
「い、嫌です」
「佐々岡さん、俺はお願いしてるんじゃない。盗撮するような人に拒否権はないよ」
後ずさる佐々岡さんの手にはピンクの花柄のレザーケースに入ったスマホがある。
何度も私に美容情報の記事やSNSを見せてくれた、あのスマホ。
寺岡さんはそれを容赦なく奪い取ると、彼女の手を掴んだ。
佐々岡さんが身をよじって逃げようとする。
それでも男女の力の差は歴然で、あっという間に掴んだ手で指紋認証のロックを解除させたようだった。
しばらくスワイプを繰り返していた佐々岡さんは深いため息をつくと、私にそのスマホを差し出した。
――見るのが、知ってしまうのが怖い。
もしここに彼女が犯人だと確証のもてる証拠があったら、私はどうしたらいいんだろう。
恐る恐る震える手でスマホを受け取って、視線を落とす。
そこに映っていたのは、ブランドショップに入っていく私や爽、避難先のホテルから出ていく私の写真だった。
何枚も連射で撮られた写真。
――こんなの、覆しようがないじゃない。
今すぐ問いただしたい気持ちを抑えて、私は静かに言った。
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