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「寺西さん。あの……彼女と二人にしてもらえませんか」
「何かあったら危ないよ」
「佐々岡さんはそんなことするような子じゃありません。大丈夫です。今は二人で話がしたいんです」
寺西さんは戸惑った様子だったけれど、私の目をじっと見つめてから頷いた。
「じゃあ、近くにはいるから。何かあったらすぐ大きな声で呼ぶんだよ」
「分かりました。すみません」
曲がり角まで寺西さんが引き返すのを確認して、私は佐々岡さんに目を向ける。
うつむいた彼女は爪が白くなるほど腕を握りしめていた。
「……温情でもかけたつもりですか?」
「え?」
「寺西さんを遠ざけて、話を聞かれないようにして? 私が寺西さんを好きだって言ったからですか?」
佐々岡さんの声は身体と同じように小さく震えている。
「そんなこと言われてもよく分からないけど、寺西さんにこんな佐々岡さんを見せたくなかったの」
「なんかそういうの、偽善者っぽくないですか」
吐き捨てるように言う彼女は、やっぱり私の知っている佐々岡さんとは別人のようだ。
生産部に配属されてからのこの三年ほどの間、間近で見てきた佐々岡さんの姿。
彼女はいつも明るくて美意識が高くて、一緒にいると楽しくて情報通で、なにより私に優しかった。
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