第十三章 トゥージュール

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 ぼんやりとティファニー前の歩道を眺める私を、寺西さんが「大丈夫?」と覗き込んでくるけれど、しばらく言葉を返すことができなかった。  目の前にあの日の光景が浮かぶ。  高級ブランドの紙袋をたくさん持った背の高い爽の姿。  壊れたパンプスが二千円だと聞いて、なんでそれくらいで? とあっけらかんと言う爽。  ひざまずいて強引に自分のスニーカーを履かせる爽。  あの時、胸が高鳴ってしまったこと。  ――駄目だ。こんなの。  忘れられるわけがない。  出会った時には1%だって好きになるとは思ってもみなかった人を、今は思い出だけでも愛しいほどに、こんなにも恋しくて。  胸の奥がぎゅぅっと苦しくなる。    すっかり思い出に気を取られていたけれど、バッグの中のスマホが震えてハッとする。  スマホを取り出すとニュースアプリの速報通知が表示されていた。 『カラフルストリームの都築爽が十五時より緊急記者会見』  ――爽が緊急記者会見? 何かあったのかな……。  今、十三時半だから、会見まであと一時間半。  そんなに突然、何か発表しないといけないようなことがあったんだろうか。
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