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いつの間にかスマホを握りしめていた私に、寺西さんが困ったように眉根を寄せて笑った。
「やっぱり都築くんのことが気になる?」
――ダメだ、こんな顔してちゃ。
寺西さんは一生懸命、私を元気づけようとしてくれている。
真摯に想いを届けようとしてくれている。
それなのに頼りっぱなしで、甘えるだけで、こんな風にあからさまに爽のことを考えている顔をしてちゃダメ。
「す、すみません。そんなんじゃないです」
「……そっか」
寺西さんがそっと私の手を握って、歩き出す。
それでも頭の中は爽のことでいっぱいで、私はそれから再開したショッピングにもなかなか集中することができなかった。
それから何軒目かで爽が誕生日に私にパンプスを買ってくれた店に入った。
寺西さんがネクタイを選びたいと言い出した時には気が進まなかったのだけれど、これ以上おかしな態度をとるわけにはいかない。
若い女性店員に寺西さんが挨拶をすると、あの日と同じようにVIPルームに通された。
ネクタイの品揃えは豊富で、寺西さんはいくつも鏡の前で胸にあてては私に感想を聞いてくる。
何もなければ、きっと。失恋を乗り越えられていたら、楽しいはずのショッピング。
だけど今は、やっぱり普通になんかできるわけがなくて……嫌でも誕生日のことが思い出されるし、ちらちらと腕時計を気にしてしまう。
あと十五分で記者会見が始まる。
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