第十三章 トゥージュール

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 爽はあの時、「俺の気持ちだ」と言ってくれたのではなかっただろうか。  私の足を包み込むキラキラと輝く美しいパンプスを見つめる。 「ジャンは愛する彼女と永遠に一緒にいたい、結婚して幸せにしたいという思いでトゥージュールと名付けたそうです。それから当ブランドの商品として受け継がれ、いつの頃からか恋人に贈ると幸せな結婚生活を送ることができるというジンクスができました。婚約指輪を恋人と一緒に選びにいくことが増えた昨今では、プロポーズに指輪の代わりに贈る方もいらっしゃるようです」  その言葉を聞きながら、私の頭の中にはあの日の爽と店員さんの会話が浮かんできた。 『なるほど、そういうことでしたか。おめでとうございます』 『特別ですからね』  ――そんな、まさか。  まさか、爽はこのジンクスを知っていて……そんな覚悟で、この靴を私にプレゼントしてくれたっていうの?  それほどまでに、私を愛してくれていたの?  爽の気持ちの大きさに、喜びに打ち震え、全身が熱くなる。  ――会いたい。  爽に会って、ちゃんと話したい。  ちゃんと伝えたい。  私も大好きだって、本当はずっと一緒にいたいって伝えたい。
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