第十三章 トゥージュール

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 六本木から赤坂の会見場までは十五分ほど……記者会見の始まる三時までは残り十分。  頭の中にはこれまで私が見てきた、爽やかなアイドルじゃない、一人の男性としての爽の色んな表情や思い出がよみがえった。  そのどれもがとてつもなく愛しくて。  爽がこの靴とともにくれた覚悟に、私もちゃんと答えたい。  爪先と踵が靴擦れを起こして痛いし、走るのなんて久しぶりすぎて喘ぐように吸い込んだ冷たい空気で肺が苦しい。  でも少しでも早く爽に会いたくて、私は必死に足を前に踏みだし続けた。    コンサートやイベントも行うことのできる赤坂Gホールの正面入り口に着くと、たくさんの警備員が警備にあたっていた。  まさに厳戒態勢といった様子で、空気がピリピリと張りつめているような気がする。  緊張しながら正面入り口に立っている警備員に正直に名乗ると、スムーズに中に入れてもらうことができた。  ついさっき、寺西さんからスマホに届いたメッセージを思い出す。 『知り合いに連絡して話は通しておいた。警備員に名乗れば入れてもらえるはずだ。頑張れ!』  ーー寺西さん。ありがとう。  私は心の中で感謝の気持ちを呟いて、階段をかけあがった。  二階の広々としたロビーの先からマイクを通した爽の声が聞こえる。  腕時計の針はもう三時を五分すぎていて、すでに会見は始まっていた。  会見が行われているのは天井の高い企業説明会や会議に使われるような大きなホール。
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