第十三章 トゥージュール

10/11

365人が本棚に入れています
本棚に追加
/245ページ
「僕、都築 爽はスターズマネージメントに所属してからこれまでずっと、温かく見守ってくださるファンの皆様と事務所のために精一杯アイドルとして邁進してきました。おかげさまでこれまでとても充実した時間とたくさんの素晴らしい経験をさせていただいたと思っています。……ですが、僕には新しい夢ができました。これからはアイドルとしてではなく、一人の男として大切な女性を守っていきたい」  ――爽。  視界がぼやけて、かすむ。  その涙で濡れた世界で、私はもう爽の姿しか見つめることができなかった。  まるでこの場に私たちの他は誰もいなくなってしまったかのように。  入り口からステージまではかなりの距離があるというのに爽も私を見つけたようで、たくさんの記者達を飛び越えて視線と視線が繋がる。  その瞳の奥に爽の意志を貫こうとする思いと、私への気持ちが滲みでているようで、私はまるで射貫かれたように彼のことを必死で見つめ返した。 「お相手はどなたですか?」 「ファンの方は悲しむんじゃないですか?」 「それはアイドルをやめる、芸能界を引退されるということですか?」  どよめきとともにたくさんの質問が飛んで、爽は私としっかりと視線を絡ませたまま語り始める。
/245ページ

最初のコメントを投稿しよう!

365人が本棚に入れています
本棚に追加