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だからあの後、事務所からも世間からも爽と私の関係は一応は公認のものになったのだけれど、爽のアイドルとしての仕事を邪魔しないように、これ以上、ファンのことを傷つけないように公の場での行動には気を付けていた。
もちろんこれまで通り、外でのデートはしないし、手も繋ぐことはない。
忙しい爽がたまに取れる連休でこうして海外に来たときだけ、普通の恋人たちと同じように二人で肩を並べて歩き、触れ合うことができる。
「美羽、ごめんな」
「ん? なにが?」
隣を見ると、すぐそこに夕陽の橙に染まる爽の顔があって。
そんなことにすら、ドキドキと胸が高鳴ってしまう。
「あんな会見までしたのに、結局こういう時くらいしか自由に外で手を繋ぐこともできないだろ」
「爽って私のこと、なんにも分かってないんだね」
「なんだよ、それ」
こうして爽のそばにいられるだけで。気持ちが通じ合っているだけで幸せなのに。
「あはは、別にー」
きっととろけそうなほど、今の私は幸せそうに笑っているに違いない。
爽が頬をちょっと赤らめて、私の肩を抱いた。
打ち寄せる静かな波音に大きな鼓動の音が混ざる。
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