第二章 優しい夜

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「寝てるだけとは思ったけど、万が一ここから本格的に意識不明になったりしたら危ねぇだろ。念の為だよ」  ――心配して見守ってくれてたんだ。こんな、夜遅くまで。  ちょっと変わった人だけど、優しいんだな。  久しぶりに誰かに親切にしてもらえた気がして、胸にジーンとくる。  見ず知らずの私をここまで運んでくれただけでもすごいことなのに。 「ありがとう。迷惑かけて、本当にすみません」  姿勢を正して、彼に向かって頭を下げる。  すると「ぎゅぅぅぅぅぅ」と大きな音が部屋にこだました。 「腹減った……」  彼がパーカーのお腹をさすりながら、小さく呟いた。  こんな状況で笑うわけにもいかず目をぱちぱちさせていると、「どこかで食べて帰るつもりだったんだよ。タイミング逃した」とばつが悪そうにつぶやく。  そっか、晩御飯、まだだったんだ。私のせいでこんな時間まで……。  今はすっかり元気だし、なんなら熟睡できたのか頭もすっきりしている。  それから私は一瞬で冷蔵庫の中身を思い出した。  昨日作り置きした筑前煮と、たしか野菜もブリもあった。  料理を出したら食べてくれるかな。  いやいや、そんな見ず知らずの人に……でも助けてもらった御恩が……迷惑もかけたし……。 「じゃ、帰るわ」  逡巡している間に、よっこらせ、と小さく掛け声をかけて彼が立ち上がる。  ――今、言わないと帰っちゃう。どうしよう。  そう思った時には身体が勝手に布団から立ち上がり、言葉が喉をついて出ていた。
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