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私はティファニーの前、道路沿いのガードレールに寄りかかり、使い古して取っ手の縫製がほつれた通勤バッグから百均で買ったプラスチックの水筒を取り出した。
透明な水筒の中で、ちゃぽんと色の薄いコーヒーが波打っている。
四月とはいえ、夜の空気は少し肌寒い。
私は首元のストールに顎をうずめ、冷めきったコーヒーをこくりと飲み込むとティファニーをぼんやりと眺めた。
私とは縁遠くて、まぶしいほどに素敵な場所。
四年ほど勤務しているアパレル企業は歴史もあり、六本木のオフィスビルの上層階にオフィスを構える有名企業だ。
だけど私はしがない契約社員だし、手取りの給料の半分近くが仕送りに消える。
残りは家賃――お父さんの知り合いだから特別に安くしてもらっているけれど――、光熱費、食費を引けば一銭も残らない。
二十五歳にもなって、貯金どころか、よく借金しないで生きていられるなと自分でも思うくらいのギリギリの暮らし。
こんな暮らしをしなくてはならなくなった理由。
それは私が大学三年のある日のこと。突然、お父さんがとんでもない額の借金を負った。
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