第二章 優しい夜

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 わざわざ他人の私を家まで運んできてくれたのもそうだし、こんな風に身体を気遣ってくれるなんて。 「ありがとう。元気、だと思う。じゃぁここで座ってて。今、準備するね」 「おう。悪いな」  彼をローテーブルの前に座るように促して、私はそそくさとキッチンに向かう。  一口コンロの単身者用の小さなキッチン。  シンクで手を洗うと、後ろから彼の声が飛んできた。 「都築 爽」 「えっ」  驚いて振り向くと、彼が片側の口角をあげて微笑んでいた。 「名前。一緒にメシ食うのにお互いの名前も知らないなんて、なんか変だろ」 「あ、そうだね」 「俺は都築 爽。あんたは?」 「都築くん。私は灰田 美羽です。よろしくお願いします」 「爽でいいよ。年は? 俺は二十五」 「あ、私も」 「おー、タメか。じゃあ敬語なしでいいから。よろしくな」 「う、うん。よろしく」  なんだか満足そうに笑う爽に我ながらぎこちなく微笑み返して、冷蔵庫を覗き込む。  中古ショップで買った私の太ももくらいまでしか大きさのない冷蔵庫。  そこから筑前煮の入ったプラスチック容器とブリ、大根、卵を取り出す。  ――よし。  お金も心の余裕もなくて、この生活になってからのこの三年、誰かを家に招くようなことはなかった。  料理を人に出すなんて、実家にいた時に家族に食べてもらって以来だ。  私は胸の中に滞っている緊張を吐き出すように一つ息を吐き出して、調理にとりかかった。  煮物はレンジで温めて、大根を細く切って味噌汁を仕込み、玉子焼き、ブリの照り焼きをフライパンで焼いていく。
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