第二章 優しい夜

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「はー、うまかった。ごちそうさま」 「ごちそうさまでした」 「料理するの慣れてんのな」 「毎日お弁当作ってるからね」 「毎日? すげぇな」  二人とも完全に敬語がとれて、いつの間にか私の中の緊張感も硬結びだった糸がほどけるように無くなっていた。  これでここまで運んでもらった御恩を少しは返すことができただろうか。  そんなことを考えていると、満足気にお腹をさすっていた爽がフローリングの床に積んである内職のトレーに目をやった。 「なぁ、あれ、なに?」 「あー、えっと、内職してるの」 「内職?」 「紙を折って組み立てて封筒にしたり、ボールペンの芯をさしたり、とか?」 「ふーん」  爽は物珍しそうにトレーに近づいて、封筒をしげしげと眺めている。  完成済みの封筒をつまむ右手の指にはブランドものであろう銀色の指輪が二つはまっていて、私は途端に自分が恥ずかしくなった。  そうだ。彼はお金持ちなんだ。一緒に食事をして、あんな風に無邪気に笑顔を振りまかれて、それで。つい、立場の違いを忘れてしまっていた。 「これが仕事?」 「ううん。昼間はアパレル企業のOL。ちょっと事情があって家族に仕送りしないといけなくて、家に帰ってから内職してるの」 「ふーん」  爽は封筒をケースにそっと戻すと左手で指輪をいじりながら、何かを考えているような表情で押し黙った。  貧乏人だって思われたかな。  おかしいって笑われるのかな。  爽が次に口を開いた時、なんて言われるのか想像しただけで怖い。  私は俯いて、知らず知らずのうちに膝の上で握りしめていたこぶしを見つめていた。
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