第二章 優しい夜

19/22

366人が本棚に入れています
本棚に追加
/245ページ
「じゃあ、バイト頼んでいいか?」 「へ?!」  思ってもいなかった爽の言葉に、勢いよく顔をあげる。  爽はまっすぐ私を見ていて、彼の大きな瞳に私が写っているのが見えた。 「弁当。食べたい時に連絡するから、うちに届けろよ」 「べ、弁当?」 「ああ。俺、ぜんっぜん料理できねぇんだよなぁ。美羽のメシ、母ちゃんの味に似てたし、めちゃくちゃうまかった」  みはね。  呼び捨てにされたことも気にかかるし、突然なんでそんなこと、と驚きを隠せない。 「呼び捨て」 「俺も爽でいい。呼び捨てでいいだろ? タメなんだし」 「腑に落ちない……」 「まぁ、いいじゃん。で、やんの? やんねぇの?」 「そっ、そんな急に言われても」 「金、必要なんだろ?」 「うっ」  痛いところを突かれて思わず口ごもってしまう。  すると爽があぐらをかいて座りなおして呆れたような声で言った。 「どうせ仕事のあとに内職やってるから寝不足だったんだろ? そのうち身体壊すぞ」 「それは……」 「弁当一回につき、材料費とは別で調理代と配達料で……そうだな。五千円出す」 「ご、五千円?!」 「なんだ? 足りないか?」 「足りないわけないじゃない……むしろ、どこの世界にそんな、素人の手作り弁当にお金だす人がいるのよ」 「そうでもしないと、ずっと今の生活を続けるだろ? 病気になる前に睡眠時間を削ってまで働くのはやめろ」  どうして。  私、まだ爽と二回しか会ったことないのに。  ただ道でぶつかって、それで……。
/245ページ

最初のコメントを投稿しよう!

366人が本棚に入れています
本棚に追加