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「なんで?」
「ん?」
「どうしてそんなに……まだ会って間もない私なんかのことを心配してくれるの?」
「どうしてって……」
「哀れな貧乏人を助けてやろうとでも思ってるの?」
「はぁ? そんなんじゃねぇって」
ちょっとひどい言い方だったかもしれない。だけど、そういう偽善で言ってるんじゃなかったとしたら、なんなんだ。
なんで、こんな出会ったばかりの見ず知らずの女の身体を心配して、お弁当なんかに五千円も払うっていうのよ。
爽はしばらく口をつぐんで、何事か思い悩むような顔になった。
それからハイトーンのブラウンカラーの髪をガシガシと掻きまわしながら「あー、もう」とため息をつくと、どこか気まずそうに視線をテーブルの上に落とし、ぽつぽつと言葉をつむいだ。
「うち、小さい時から片親でさ。今でこそ金には困ってないけど、俺が高校生の頃、母ちゃんかなり無理して倒れたんだよ」
思ってもみなかった家族の話に、思わず息を呑んだ。
本来ならきっと付き合いの浅い私なんかが聞いてはいけないような、女手ひとつで彼を育てあげたお母さんの苦労。
私は何も言えずに、小さく頷いて爽の声に耳を傾けた。
「病気の前兆はあったのに、俺のために必死で働いてたせいで病院にも行ってなかったみたいで。手術してなんとか助かったけど、あの時はマジで……もう駄目かと思った。だから、あんまり無理を続けると美羽も突然道端で眠るくらいじゃ済まなくなるぞ」
爽が顔を上げて、じっと私を見据える。
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