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たまたま爽の境遇と重なった。
ただそれだけなのに、赤の他人の私なんかのことを気にかけてくれる。
ぶっきらぼうだし、ふてぶてしい態度の時もあるし、だけど料理を美味しそうに食べてくれる子供のような顔や、こんな優しい一面もあるんだ。
ーー不思議な人。
「一人暮らしだし、しばらく美羽や母ちゃんの作るような家庭料理みたいなの? 食ってねぇんだよ。高級店のお上品な煮物より、こういうのが食いたくなる時もあるだろ。そのための五千円」
「でも、そんなにもらえないよ」
「安かったらわざわざバイトを頼む意味ねぇだろ。俺も毎日なんて頼めねぇから」
「でも」
「あー! もう、でもでもうっさい! 俺が決めたからいい。美羽に拒否権はない!」
焦れたように言い切ると、爽はローテーブルにのせていた私のスマホを掴んでこちらにズイッと差し出してきた。
「え? なに?」
「スマホを振れ」
「は?」
「メッセージアプリだよ。振って登録。ほら」
「そ、そんな強引に」
「だから拒否権はねぇっての」
――これは交換しないとどうにもならないな。
スニーカーを私に履かせた時も有無を言わせずだったし、けっこう短気で頑固なのかもしれない。
私は渋々、爽の指示通りスマホを振って連絡先を交換した。
アプリにお互いのプロフィールが表示されると、爽は満足そうにニヤリと笑って立ち上がる。
「今、送ったのが俺んちの住所な。とりあえず今度の月曜は十九時には仕事終わって家にいるから。弁当届けろよ。また条件は送っておく」
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