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第三章 本当のあなた
よく知りもしない男の家にお弁当を届けるだなんて、本来なら嫁入り前の女性がやることではないのかもしれない。
名前や年、住んでいる場所は聞いたけど、別に身分証を見せてもらったわけでもないし、確実に安全ですと誰かが保証してくれるわけでもない。
そういえば、まだ爽の職業だって知らないんだ。
でも爽の真っ直ぐな瞳やお母さんの話は、とても嘘をついたり何かを企んでいるようには見えなかった。
身体を壊したお母さんとたまたま境遇が重なった私を心配してくれている、ただそれだけに感じる。
そんなことを思い悩んでいる内に休日が終わり、約束の月曜になった。
十二時をまわり、昼食に席を離れる社員たちの醸し出す緩んだ空気に、私もパソコンから目を離す。
隣の佐々岡さんは作業のキリがよくないのか、まだモニターを難しい顔で睨んでいる。
デスクの内側にマグネットフックでかけている財布とスマホの入ったミニトートからスマホを取り出して、メッセージアプリを開いた。
家族や友人とのやりとりが並ぶトーク一覧画面、一番上に表示されている爽の名前。
今朝、通勤中に送られてきた爽からのメッセージだ。
『バイトのルール
一、 絶対に口外しないこと
二、 Twitterやインスタ等のSNSにバイトや俺のことを書くのも禁止
三、 来る前に必ず連絡をすること
四、 できるだけタクシーで来ること(交通費別途支給!)
五、 マンションに着いたら正面玄関からじゃなく、裏にある駐車場のエレベーターから入ること
六、 しいたけとセロリは入れないこと』
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