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――最後、ただの好き嫌いだし。
そういえば、筑前煮のしいたけにも口をつけてなかったな。
長々と綴られたバイトの条件に驚かされる反面、その一文が可笑しくてつい口元がほころんでしまう。
「あれ? 何か良いことでもあったんですか?」
隣から佐々岡さんに覗き込まれて、私は思わずスマホを隠すようにして胸に抱え込んだ。
「う、ううん! なんでもない!」
「んん? なんか怪しい。灰田さんがスマホ見ながらニヤニヤするなんて珍しすぎますもん」
「本当になんでもないの。表情筋が緩んでるのかも? あははー、佐々岡さんの顔のコロコロ、あとで貸してもらおうかなぁ」
「えー、ホントですかぁ? 全然それはいいんですけど……」
「ほんとほんと。ほら、ご飯行こ!」
「はーい」
好奇心と腑に落ちなさのないまぜになった表情の佐々岡さんを促して、席をたつ。
今日の彼女の昼ご飯は近くのイタリアンレストランが配達にくるクリームパスタとサラダのセットだ。
私は焼き鮭と玉子焼き、ミニトマトとご飯という手抜き弁当。
二人でお弁当を手に他愛のない話をしながら休憩スペースへと向かう。
佐々岡さんが休憩スペースの手前の廊下、壁沿いに並んでいる自販機でコーヒーを買うというので、私もその場で足を止めた。
「あっ」
自販機のボタンに手を伸ばしかけた彼女が、廊下の先を見て小さく声をあげた。
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