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「どうしたの?」
「あれ、広報部の寺西さんですよ。ほら」
佐々岡さんの目線の先に三人の女性に囲まれた背の高い細身の男性がいた。
彼女が可憐なジェルネイルの指先を向けているのは、どうやらその男性のようだ。
どこかで顔を見たことがある気がするけれど誰だったか思い出せない。
男性は長身でスタイルが良くベージュのスーツをスマートに着こなしている。
あんな色のスーツ、私の働いている部署の男性は一人として着ていない。
みんな、黒やグレーばかりだ。
おしゃれ、というのが第一印象だけど、涼しげな目元にスッと通った鼻筋など綺麗な顔をしている。
「すんごいかっこよくないですか? 塩顔イケメンですよねぇ」
「そ、そうだねぇ」
女性たちや佐々岡さんは一様にきゅるんとした目で彼を見つめている。
乙女の目だ。
しきりに話しかける女性たちに男性が微笑んで何か答える度、彼女たちからハートマークが舞っているように見える。
もともと恋愛に疎いし、お父さんの借金のことがあってからはそれどころじゃなくて。
異性や恋愛を遠ざけて生きてきたせいで、私はもうずっとそんな目で誰かを見つめたことはない。
そんなことすら、彼女たちを少し羨ましく思う。
「どこかで見たことある気がするんだけど、誰だっけ?」
「え! 寺西さんのこと、チェックしてないんですか?」
「チェ、チェックって」
ちょっと問いかけてしまっただけで、すごい勢いで佐々岡さんが詰め寄ってくるから、私は面食らった。
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