第三章 本当のあなた

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 海辺の別荘かホテルのような豪華で洒落た白亜の建物。  青い空、透き通るようにエメラルドグリーンの海。  そこで踊る五人の男性。 「リゾート地で撮影されたミュージックビデオは五人とあなたが旅行をしたら? というテーマ」と音楽にナレーションがかぶさる。  曲はサビ部分らしく引きのカットからそれぞれのメンバーソロのカットに切り替わっていく。  そこで私は思わず手から箸を取り落とした。  画面いっぱいに映し出されたのは、満面の笑みを浮かべた爽だった。  つい先日、私の名前を呼んだあの高い声が滑らかに歌う。  ――うそ、でしょ?  他のメンバーを映し出した画面が、また全員で躍る姿に替わった。  目が吸い寄せられる。  一人を中心に左右に二人ずつ囲むように前を向いたフォーメーション。  右手前方にいるのが、爽だ。  長い手足を大きく動かして、メロディーを演奏している楽器の一つかのようにリズムにのって踊る。 「あれ、灰田さん、どうしたんですか?」  箸を拾うこともできず、ぽかんと口を開けたままの私に佐々岡さんが眉根を寄せて首を傾げた。 「あ、ごめん。なんでもない」  そう言いながらも私は画面から目を離せないでいた。
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